翻訳しました

『亜硫酸塩(SO2)無添加ワインを作り続けることは可能か?』

Le Rouge&le Blanc 2024年 No.152 春の号より

フランスで話題になった雑誌の内容が、とても興味深い内容でしたので、翻訳を致しました。

数年前から続く猛暑により、発酵のコントロールが難しくなってきている。

特に SO2 無添加醸造を試みる時、高温度はバクテリアや酵母の暴走リスクを増加させる。

R&B の編集者兼超小規模醸造家であるフロリアン・デミニュ氏(Florian Demigneux)が、苦悩を語る。

『SO2 無添加でワインが作れなくなるのは、時間の問題だ』

これは、2023 年 12 月、 Figaro.fr に掲載された、アリシア・ドレ氏(Alicia Dorey)の記事のタイトルである。

この文は実は、ナチュラルワインの先駆者、ピエール・オヴェルノワ氏(Pierre Overnoy)の口から発されたものである。1986 年以来、醸造家たちの指導的人物として活躍するオヴェルノワ氏が、地球温暖化はナチュラルワイン醸造への情熱をぐらつかせようとしている、と警鐘を鳴らしている。

これを喜ぶ者たちもいるだろう。ワインとは人によって作られる農作物であり、人の介入なしでは、ワインは自然とビネガー化するものだ、などと言いながら。ソーダ飲料文化に感化された者たちは、ナチュラルワインはただのワインに過ぎない、と良心の咎めもなく言い放つであろう。

”ナチュラル”それとも”風変わり”? 

近年、『これはナチュラルワインだ』というフレーズは、聞く者の懸念を提起していたことを認識しよう。仮に、ナチュラルワインであることだけが、そのワインの特徴であるならば、そのワインに興味を向ける必要はないだろう。

ナチュラルワインという名称が、数ある奇抜なワイン造り方法を正当化している、という可能性は重々にある。筆者自身も、もちろんいくつか例を挙げることがことができる。

筆者はワイン愛好家として、自分の手で試すべく、使われなかったブドウを四方からかき集め、自分の足で足踏みし、果汁を大びんに詰めて、ナチュラルワイン醸造を試みた経験が数度ある。毎回、発酵時には高揚感を伴ったが、成功と呼べるような結果は一度も得られなかった。揮発酸、酸化、ブレット、糸引き、ネズミ臭、その他未分類現象の数々。が、これら失敗が、私の成長を促したと言えるだろう。自身でワイン造り会社を立ち上げた時、慎重さに重きを置けたからだ。

ワイン造りを開始した時、ワイン醸造専門店に行き、大容器といくつかの添加物を購入し、店を出た。。。自然酵母で作ったから残念な気持ちは大きかったが、 1 グラムの SO2 を圧搾機に入れた。酵母を刺激する必要が出た場合に備え、硫酸アンモニウム(SO4)を片手に。長期発酵がもたらす味わいの複雑さは、今回は諦めよう、と心で呟く。私はついに、ワインを造りたいのだ。

毎年続く猛暑の中、2022 年、美しく見事なブドウを育てた。しかし、自然の計らいとは一体何なのか。見事であったのは見た目だけだったのである。軟弱な pH、高糖度、活力の足りない酵母では、バクテリアとブレットが喜ぶだけだ。アルコール発酵(酵母による、砂糖がアルコールへ変換すること)が始まったばかりであるのに、マロラクティック発酵(バクテリアによる、リンゴ酸が乳酸に変換すること)が完了してしまったタンクもいくつかある。応急処置的に澱引き(スーティラージュ)と SO2 添加を試みたが、ラクティックスティング(piqure lactique)とブレットの発生を、防ぎきることはできなかった。

またしても、身銭を削った学びとなった。が、そもそも私のケースは、稀ではない。設備が優良で、長年の経験を持つドメーヌも、同様の苦い経験をしている。『今年こそは、ブレンドすることを免れないだろう』とは、何度となく耳にした。つまり、発酵が上手くコントロールできなかったワインを、上手くいったワインにブレンドすることを言っている。

この手のカモフラージュは上手くいくこともある。しかし、私のように、超小規模組織で、尚且つ強固なセールスネットワークを持たない無名なワイナリーは、この手の手段を選べない。よって、数ヘクトリットルを蒸留酒業者に送る羽目になった。

常に採算が取れるわけではないリスク

ヴィンテージを重ねるが、似たり寄ったりな年は一度もない。2023年は、気候データの変更があった。夏季の熱帯雨が、ブドウ樹の葉とブドウを傷めるものの、醸造は平静であると予兆できた。収穫時、オウトウショウジョウバエ(mouche suzukii)と、酢酸敗のせいで所々、赤のブドウ房にビネガー臭が湧いた。仕方がない。気が重たくなるが、選果が時には必要だ。

私の耳に入った、もう一つの別の例を話そう。ワイン造り開始から日が浅い、新世代醸造家カップルが、とても美しく育ったある区画のブドウを購入した(収穫前購入)。美しく衛生状態も良好であるにも関わらず、成ったブドウの約半分を樹に残し、彼らは収穫を終えた。理由は『傷み過ぎ』。

樹に残されたブドウ房を見たこの区画のオーナーは、機械で再収穫をした。さて、カップルと、オーナーは翌日、それぞれの果汁の、揮発酸を測定してみた。房のトリエを厳しく行ったカップルのジュースには、 0.7ml/L の揮発酸、機械収穫したオーナーの果汁には 0.3ml/L となった。カップルは SO2 無添加、オーナーは、3g/hL の SO2 を投入したとのこと。

別のエピソードになるが、アルコール発酵が活発に行われていたにも関わらず、酢酸菌が生成された、という話も耳にした。もう、ロジックでは到底理解が追い付かない状況だ。ワインがゼラチン状になってしまう糸引き現象、発酵後すべてが上手くいき始めた途端に起こる、ネズミ臭の急激な増殖。。。これらの災難を被る我々は、一体何をしたというのだ?

亜硫酸塩(SO2)、天使それとも悪魔か?

ナチュラルワイン一本の値段は、ワインその物の値段にリスクと、醸造家の不眠の夜や俊敏さを加算せねばならない。数多い脅威や繰り返す落胆が圧倒する今日、ピエール・オヴェルノワ氏の言葉は我々の支えとなる、守護神のように映る。

『SO2 を少し入れてしまえばいいではないか。だって仕方ないだろう。どうせ 2 億 5 千年後には、秩序が整うはずだから。それに、君のワインの欠陥は君からきているのではないんだ。これは、人類と人類が犯した騒乱からきているものなのだ。ひょっとすると、君のワインの欠陥は、謙遜心や粘り強さという、君の美点でさえあるかもしれない。』

フランス全土の醸造家が諦めきった訳ではない。決定打となる醸造法の模索を地道に続ける醸造家だってまだまだたくさんいる。言っておかねばならないが、SO2 を試してみた醸造家たちは、この物質は決してただの気休めではないことを十分に理解している。濾過と SO2 によって、個性を失ったワインは、結局のところ、美点よりも欠点の方が多くなるものだ。ワインそのものの魂が欠如しているのだから。

もちろん、 1-2g/hL の SO2 は、4- 5g/hL の SO2 とはわけが違う。そもそも、圧搾時に投入される SO2 は、瓶詰めの頃には全て、消化されている。しかし、この投入によって失われたフレーバーは、我々には知る余地は一切ない。だからこそ、探求を続ける者たちがいる。顕微鏡片手に、発酵に有効で有用な酵母の測定を繰り返す醸造家たちがいる。ブドウ樹の植え付けの実施と研究、そして醸造方法の農学的研究を続ける者も。本誌が語り続ける、これら全ての研究テーマは、醸造家たちに希望を灯す。彼等の最高のヴィンテージは、もう間近だ。

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技術的視点

近年の気候の温暖化と農耕作業の進化は、ブドウの成分に変化を与えている。微量のボトリティス防止剤などの使用は、酵母やバクテリアと言った土着細菌叢を増加させると分かっている。気温上昇によってもたらされた、これら細菌叢の数量、ph 値、そして酸度の変化は、バクテリアの増殖を促し、健全な発酵進捗に影響を及ぼす。今後益々、高温と乾燥が予想される今、ブドウの酵母/バクテリアの割合は逆転する。バクテリアは、発酵開始と同時に、酵母と生存競争を始め、発酵の中盤で、発酵そのものを止めてしまうほど、酵母叢へ害を及ぼす。この、バクテリアの活発化は、ラクティックスティングやアセティックバイトをもたらす。特に、ブドウに付着している酵母株の増加は、風味に好影響を必ずしも与えず、これは全て酵母の種類に依存する。揮発酸を生成させる酵母もあれば、酢酸菌を生成させる酵母もある。温度に関するもう一つの難点は、ブドウ樹の根っこと土壌の意思疎通をブロックさせ、ミネラル系栄養素の吸収を妨げ、ブドウの成熟を困難にすることだ。加えて猛暑は、リンゴ酸を破壊するため、酸度が急落する。この酸度の落ちた果汁やワインは、化学的そして細菌叢的に不安定になる。最後になるが、酷暑による収穫期の早まりは、発酵温度をも高め、部分的もしくは完全に酵母が殺菌されてしまう場合もある。これらの酵母の活動停止は、バクテリアたちを活発化させてしまう。発酵に伴うリスク管理は、より確かな厳密度と蔵の衛生管理を要するが、これだけで、全てのアクシデントが防げるという保証はない。